シャドーロールはなぜつける?競馬における効果や意味を解説
「競馬で出走馬に付けてるシャドーロールって実際のところ効果あるの?」
「シャドーロールって昔から使われているものなの?」
「良い点ばかりが取り上げられるけどシャドーロールにデメリットは無いの?」
このページを訪れたあなたは、こういった疑問を抱いているのではないでしょうか。
シャドーロールの存在を漠然と知ってはいても、付けている意味や効果についても知っている人はそれほど多くないかと思います。
今回は、そのシャドーロールがもたらす出走馬へのメリットやデメリットに加えて、使われてきた歴史についても紹介していきます!
シャドーロールをつけることによる出走馬への良い効果
シャドーロールは、鼻の上にフワフワしたものを乗せているだけに見えるため、大した効果も無いように感じている人が多いかと思いますが、実際は競走馬にとって数多くのメリットがあるとされているのです。
まず、馬にシャドーロールをつけることで得られる良い効果について見ていきましょう。
視界の下部を見えにくくして余計な恐怖心を取り除く
シャドーロールは鼻の上に付けられているため、馬からすると視界の下部が覆われたような状態になり、足元の辺りを見られなくなります。
なぜ足元の視界を遮ってしまうかというと、馬が自らの影に驚くのを防ぐためであり、その用途で付けられたのがシャドーロールの始まりとされています。
競馬愛好家の間で知らない人はいないであろうナリタブライアンも、元々はレース中に足元で動く自らの黒い影を強く怖がって、走ることに集中できませんでした。
それが、シャドーロールを付け始めて下方の視界を遮ってからというもの、驚異的なポテンシャルを見せつけてクラシック三冠馬となったのは有名なエピソードでしょう。
現在では自身の影を見えなくすること以外に、物陰や芝の切れ目、果ては地面の僅かな起伏に目が行ってしまう馬に対しても、シャドーロールをつける効果があるとして利用されています。
中にはシャドーロール単体で運用するのではなく、ブリンカーやチークピーシズも組み合わせ、あらゆる方向の視野を制限することで集中力を保たせることに成功したという例もあります。
また、単純に視界を狭くして情報量を減らすことで、速く走ることに集中させるためにつける場合もあるようです。
想像に過ぎませんが、つけるシャドーロールは馬によって様々な形や色がありますから、物によって馬の落ち着き方や立ち振る舞いが変わっている可能性も、十分に考えられるでしょう。
一口にシャドーロールで視界の下部を遮断すると言っても、その用途には様々なものがありますから、競馬を見る際には「なぜ、あの馬がシャドーロールを付けているのか?」と考えてみるだけでも楽しいと思いますよ。
馬の走るフォームを矯正できる可能性がある
馬によっては、シャドーロールを付けて視界の下部を遮ったとしても、頭を下げながら走ることで無理矢理にでも下を見ようとしてしまう馬がいます。
それを逆手に取ったのが、レース中に頭を上げる癖のある馬に対してシャドーロールをつけることで、頭を下げさせて制御しやすいフォームに矯正するという使い方です。
矯正器具でフォームを修正することができれば、調教の手間を省けるので重宝されることもありますが、実際にシャドーロールだけでフォームを矯正できた例はあまり多くありません。
フォームの矯正効果には個体差があるうえ、装着することに慣れてくると頭を上げるスタイルに戻る馬も多いためです。
もしかすると調教師サイドとしては、フォームが修正できればラッキーくらいの気持ちで試しているのかもしれません。
ダート戦では目に砂が入ることを抑制する効果も期待される
気休め程度と言われていますが、ダート戦において目へ入ってくる砂の量を抑えるという効果を期待されて、シャドーロールが付けられることもあります。
ダート戦では出走馬たちの蹴り上げた砂が空気中に舞っており、うっかり目に入るとレースのやる気を失ってしまう馬もいるため、そのような馬にシャドーロールをつけるのです。
ダートでなくとも、単に目へ微物が入るのを防ぐ目的でを運用する場合もあります。
ただ、シャドーロールの装着位置が鼻先であることからも明白な通り影響はかなり小さいので、これらの効果を求めて積極的にシャドーロールをつけることは殆ど無いようです。
シャドーロールを取り巻く環境はここ 30年で大きく変化
様々な効果があると言われてきたシャドーロールですが、その使われ方は時代を追うごとにどんどん変わってきました。
特に現代では、かなり意外な理由で使われている場合もあり、それを聞いたらあなたも驚くのではないでしょうか。
ここからは、シャドーロールがどんな理由で使われてきたのかを時系列順に、まとめて紹介していきます。
ナリタブライアンの登場までは無名な矯正器具だった
シャドーロールをつけた出走馬は、現代でこそ珍しくない光景になっていますが、1993年にあのナリタブライアンが登場するまでは、メンコやブリンカーに比べて知名度の低い矯正器具でした。
装着の映像が記録として残っているのが 1969年、スピードシンボリの欧州遠征時くらいで、稀に見かける程度の使用頻度となっています。
情報が古いこともあって、なぜシャドーロールを運用したかという理由までは見えてきませんでしたが、恐らく視界の下部を遮る目的だったと考えられます。
まだシャドーロールのフォーム矯正効果について語られたような時期ではなかったため、スピードシンボリの調教師に先見の明があった可能性は否定できないものの、フォームを修正する目的で使われたとは考えにくいです。
また、海外遠征先の競馬場が芝だったため、少なくとも舞い上がる砂を目に入れないようにする用途ではないことも明らかと言えます。
当時、視界を制限する以外の理由でシャドーロールを使う可能性は低かったと考えられるのです。
2000年前後はナリタブライアンにあやかって装着する馬が急増
ナリタブライアンが「シャドーロールの怪物」として一躍有名になると、調教の現場でシャドーロールが使われることは急増しました。
フォームを矯正することを目的とした着用も増え、競馬場はシャドーロールをつけた出走馬たちで溢れかえったのです。
その中で、シャドーロールの効果について詳しくデータが集められるなど、調査が進むようになると次第に見方も変わっていくことになります。
近年になってフォーム矯正の効果が懐疑的な見方をされるように
近年、理想的とされるフォームは頭を低く前に伸ばす形という通説に対し、馬の個体差に応じた個々の理想フォームが存在することを提唱する調教師も増えてきています。
頭を低くすることが必ずしも良いことにならないのであれば、当然シャドーロールもフォーム矯正目的では不要です。
これは人間に置き換えると理解しやすいと思うのですが、スポーツにおいてはトップクラスの選手であっても、各々が独自のフォームで競技に取り組んでいますよね。
選手それぞれが自分の身体に合っていると感じるフォームを採用していて、かつプロの世界でも通用しているわけです。
競馬界でも、今は馬の骨格や筋肉の発達に合わせて、個々の最適なフォームを見出していくという方針に変わってきているようです。
シャドーロールを運用していく中で、「頭の高い馬は走らない」という常識から大きく変わっていきました。
現在では他の矯正器具に比べても使用頻度が低い
2022年現在にもなると、他の矯正器具に比べてもシャドーロールの出番はかなり少なくなってきました。
今では矯正目的でシャドーロールをつけることはあまり無く、ただの飾りとして装着させている例すらあるくらいです。
国枝厩舎が、所属する馬を遠くから見た時の目印として、シャドーロールを運用しているのは有名な話かと思います。
あくまでも飾りとしての運用なので、馬の走り自体には影響を出さないために、かなり小さなサイズのものが使用されています。
また、厩舎のカラーに合わせた色のシャドーロールを馬につけるところもあり、今ではファッションアイテムのような立ち位置になっているのです。
一方、最近でもシャドーロールに速く走る効果を求めて、アエロリットという競走馬に運用された例があります。
アエロリットも初めは飾り目的だったかもしれないのですが、2017年の NHKマイルカップではシャドーロールのサイズを大きくするなど工夫を始めたため、少なくともそのレース以降は効果を狙って装着したと思われます。
結果は NHKマイルカップ優勝で、シャドーロールは アエロリットが G1 を制覇する立役者となったのでした。
シャドーロールをつけて悪影響があった競争馬もいる
ここまではシャドーロールをつけることによる良い効果に着目してきましたが、デメリットもあることを忘れてはいけません。
出走表にも詳細が記載されているブリンカーと異なり、シャドーロールのデメリットは調べないと見ることが無いと思いますので、ぜひこの機会に頭へ入れていただければ幸いです。
全く動かなくなる馬や暴れだす馬がいる
シャドーロールによって足元の視界が制限されることを不快に感じ、機嫌を損ねて歩くことすらせず全く動かなくなる馬がいます。
それならまだいいのですが、視界を覆われたことに怒って暴れだす馬もいるなど、シャドーロールは馬にとってかなりストレスのある矯正器具だと言えます。
慣れさせればいいという見方もあるとは思うのですが、ストレスを与え続けて良いことは何もありませんから、嫌がる馬には一切つけないことが望ましいとされています。
フォームが悪くなってしまう例もある
シャドーロールにはフォーム矯正効果もあるとお伝えしましたが、逆にフォームを悪くしてしまう可能性もあります。
元調教師の秋山雅一氏によれば、過去に頭を高く上げる競走馬へシャドーロールを着用させたところ、もっと頭の高いフォームに変わって逆効果だったことがあったそうです。
また、シャドーロールで塞がれた足元の視界を得ようと、頭を下げるのではなく首を強く振ってしまうようになる馬もいます。
レースで速く走るどころか、ケガも心配されるフォームになっていて逆効果ですね。
プロスポーツ選手がフォームの改造に失敗して引退に追い込まれることがあるのと同様、競走馬にとってもフォームの矯正は高いリスクが付きまとうのです。
矯正の効果について科学的な根拠が揃っていない
シャドーロールをつけることによる効果について、科学的根拠が十分に揃っていないのも問題点だと言われています。
そもそも今のところ、競馬業界で矯正器具としての効果が科学的に証明できているとされているのはブリンカーだけです。
だからこそ、ブリンカーだけは出馬表に装着予定の有無が記載されていて、メリットやデメリットについて各所で紹介されているのです。
シャドーロールを含めて、ほとんどの矯正器具には科学的な根拠が無いため、良い効果を得られるかどうかは完全に調教師の裁量次第となっています。
シャドーロールは競馬ファンならまだまだ楽しめる
ここまで、シャドーロールについてメリットやデメリット、そして使われ方まで紹介してきました。
内容を簡潔にまとめると以下の通りです。
・視界を制限されることで機嫌を損ねる馬や怒って暴れる競争馬もいる
・頭を上げて走ってしまうフォームを矯正できる可能性がある
・シャドーロールによってフォームがより悪くなってしまう場合もある
・ダート戦で目に砂が入りにくくする効果を期待されることもある
・シャドーロールの矯正効果には科学的な根拠が無い
・ナリタブライアンの影響で人気が出て使用頻度も高まった
・現在では飾りとして使われるのが主になるほど使用頻度も低い
調教師サイドからすると、既にシャドーロールの流行は下火で使われることも少なくなってしまいました。
効果に科学的な根拠が無いという理由はもちろん、元々それほど扱いやすい矯正器具でもなかったことが、使用率低下に拍車をかけているのです。
しかし我々競馬ファンにとっては、全く新しい競馬の楽しみ方になりつつあるのは見逃せません。
ファッションとしてシャドーロールをつけることが増え、馬の個性を彩るアイコンとしての地位を築きつつあるからです。
シャドーロールなどの矯正器具、もといファッションアイテムを含めた馬の立ち居振る舞いで推しの競走馬を決めて追いかけるのも、競馬の今時な楽しみ方かもしれませんね。