騎手はとても危険な職業!落馬によって大怪我や亡くなってしまうことも
競馬で走っているのは競走馬なので、どうしてもそちらにスポットが行きがちですが、競走馬の能力を最大限に引き出し、トップで駆け抜けるように導いている騎手たちの存在も忘れてはいけません。
競走馬の実力が拮抗しているときは、騎手の技量によってレース結果が左右されるので、どの騎手が騎乗しているかチェックするのも、馬券を当てるためには非常に重要です。
本記事では競走馬を導く存在である騎手にスポットを当て、いかに危険な職業であるかを詳しく解説していきます。
騎手という職業は体調管理が大変で危険も伴う職業
中央競馬の騎手として働くためには中央競馬の騎手免許を取得する必要があります。
そして地方競馬の競走馬に騎乗する場合も、地方競馬の騎手免許を取得しなければなりません。
免許があるということは免許を取得するための試験があり、その試験は独学で取得できるようなものではないので、中央競馬、地方競馬それぞれの競馬学校に通うことが必須となっています。
本項目では騎手の人たちがどのような仕事をしているのかについて解説します。
レースに出るためのトレーニングと体調管理
騎手のメインの仕事といえば、競走馬に騎乗してレースに出走することです。
ちなみに騎乗する競走馬は自分で指定できるわけでも、勝手に割り振られるわけでもありません。
実績を十分積んでいる騎手であれば複数の馬主から騎乗を依頼されるため、ある程度騎手が選ぶことも可能ですが、そうでない場合は騎手自身が牧場などを訪れ、騎乗させてもらえるようプレゼンをしなければなりません。
騎乗する競走馬を確保するのもある意味騎手の重要な仕事のひとつといえるでしょう。
そして、実績ある騎手であればあるほど1日のうち複数のレースに出走することになります。
激しいレースや気性の荒い馬を制御して騎乗した場合はたった1レースでも息が上がるほど体力を消耗するため、想像以上にハードな仕事です。
また、競走馬のトップスピードは70キロ近くになり、それだけのスピードが出ている中振り落とされずに乗るためには人並外れた体幹と筋肉が必要になるため、日々のトレーニングは欠かせません。
しかし、各レースごとに決められた斤量があり、それをオーバーするとレースに出走できないので、筋肉をつけすぎないように気を付ける必要があります。
もちろん必要以上に食べ過ぎたり飲みすぎたりするのも厳禁です。
レースのない日はなにをしている?
レースのない日は先に解説したトレーニングをしたり体幹を鍛えたりしていますが、厩舎に赴いて近々騎乗する予定の競走馬に跨り、調教をお手伝いすることもあります。
その際に調教師や馬主と馬の現状やこれからの調教内容などを話し合い、レースに向けて万全に仕上げるよう調整をしていくといったことも騎手の大事な仕事です。
そして有名騎手になると競馬専門紙やスポーツ誌の記者から取材を受けるため、その対応もしなければなりませんし、競馬関連のイベントに出演して競馬を世間に広める広報役になるときもあります。
有名騎手になればなるほどレース以外の仕事が増え、まさに休む間もなく競馬に携わる状態になっているといえるでしょう。
騎手は危険を伴う職業
そして何と言っても騎手は危険を伴う職業であるという事を忘れてはいけません。
俗にいう「1馬力」は75キロの荷物を1秒間に1メートル動かす力だと言われていますが、競走馬の力は1馬力どころではありません。
競走馬であるサラブレッドの脚力は軽く10馬力はあると言われています。
そのため、軽く見積もっても800キロ近くの脚力があるということになり、こんな力で蹴られたら人間はひとたまりもありません。
また、競走馬の重量は軽い馬でも400キロ、重い競走馬は500キロをゆうに超えます。
調教中などに手や足を踏まれてしまえば簡単に骨折してしまうでしょう。
しかし騎手にとって最も危険なのが「レース中の落馬」です。
時速70キロ近くで走っている競走馬から落馬して地面に身体を打ち付けられた際の衝撃は想像を絶するもので、打ち所が悪くなければ打撲程度で済みますが、受け身に失敗した場合は骨折してしまいますし、これまでの競馬の歴史においてはレース中の落馬が原因で命を落としてしまった騎手も複数名存在します。
危険な落馬事故の動画を紹介
かつて中央競馬で騎手として活躍していた際に複数回落馬し、重傷を負った経験がある田原成貴氏は以下の6つが落馬が発生する主な要因としています。
②競走馬の気性(突然進路を変える・立ち上がるなど)
③騎乗している馬が前の馬に乗りかかる
④前の馬に進路を突然妨害された時
⑤前の馬が突然目の前で落馬して巻き込まれる
⑥鐙がずれたり蹄鉄が外れるなど馬具の不具合
落馬が発生してしまった瞬間を捉えた動画がいくつかYouTubeにアップされているので、それを観ればどれだけ騎手という職業が危険なのかが分かるのではないでしょうか。
本項目では特に危険な落馬事故の動画を2つ紹介します。
多重落馬動画集
多頭数が落馬したシーンをまとめた動画です。
時速70キロ近く走っている中、突然目の前の馬が落馬事故を起こしてしまえば避けることはできないでしょう。
これだけ危険な事故を1回でも経験し、さらに大怪我までしてしまえば騎乗すること自体が怖くなってもおかしくないのですが、復帰して同じように騎乗できる騎手の皆さんは本当に並外れた精神力を持っていると感心するしかありません。
香港スプリント2021
この多重落馬事故は多くの競馬ファンに衝撃を与えた事故で、未だに記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。
この事故は前を走っていたアメージングスターが突如脚部故障を起こしたことによって発生してしまいました。
先に紹介した落馬が発生する原因に見事に合致していることとなります。
前の馬が故障するなどということは当然誰も予想できないので、他の馬は避けることができなかったのでしょう。
また、反応して避けようとするものの、他の馬に衝突してしまって落馬するというケースもあります。
このレースには日本からピクシーナイト、レシステンシア、ダノンスマッシュが出走しており、レシステンシアとダノンスマッシュは上手く避けることが出来ましたが、ピクシーナイトは避けた際にほかの馬と衝突してしまい、騎乗していた福永祐一騎手が落馬、一時はどうなるかと思われましたが、幸い鎖骨を骨折した以外は影響なく、2月には復帰して現在も騎手として活躍しています。
この事故では事故の発生を引き起こしたアメージングスターともう1頭が予後不良となり、残念ながら安楽死処置が施されました。
近年のレースで特に印象的な落馬事故
先の香港スプリント以外で特に近年競馬ファンに大きな衝撃を与えた落馬事故を3つ紹介します。
落馬事故はいつ発生するか分からないので防ぎようがないといえばないのですが、出来るだけ発生しないことを祈るばかりです。
1995年宝塚記念
本来宝塚記念は阪神競馬場で開催されるのですが、この年は阪神競馬場が改装工事をしていたため京都競馬場での開催となっていました。
この年の天皇賞春を制したライスシャワーは本レースにおいてファン投票1位を獲得していました。
レースがスタートして後方を走っていたのですが、最初のコーナーを回ったところで鞍上の的場均騎手は異変に気付きます。
その瞬間「勝ち負けは気にせず無事に回ってくることだけを考えよう」と思っていたそうです。
しかしライスシャワーは第3コーナーで自らスピードを上げてしまい、その際に粉砕骨折を発症、前のめりになった後転倒してしまいます。
的場騎手は打撲のみで済みましたが、ライスシャワーは骨折した骨が皮膚を突き破ってしまうような状態で手の施しようがなく、その場で幕が張られて安楽死処分となりました。
ライスシャワーのこれまでのストーリーと相まって、この落馬事故は往年の競馬ファンにとっては忘れられない悲しい出来事としてあまりにも有名です。
京都競馬場ほか複数の場所に記念碑などがあり、今も多くのファンが手を合わせにこの場所を訪れています。
2001年京都大賞典
このレースでは前を走っていたステイゴールドが最終直線で突如斜行してしまいます。
その結果ナリタトップロードがステイゴールドとすぐ横を走っていた テイエムオペラオーに挟まってしまうといった状況になり、鞍上の渡辺薫彦騎手が落馬、幸いナリタトップロードは軽い打撲で済み、渡辺騎手も大事には至らなかったものの、この斜行によってステイゴールドは失格となり、繰り上がりでテイエムオペラオーが優勝という結果になりました。
2010年1月11日中山競馬場
第4レース3歳新馬戦において、先頭を走っていたノボプロジェクトが第4コーナーを回った際に突如斜行を開始、それによって多重落馬事故が発生してしまいます。
最終的に出走14頭中9頭が落馬してしまうという結果になり、この頭数は2022年現在においても未だ更新されていない中央競馬で開催されたレースにおける最大落馬頭数となっています。
落馬によって命を落としてしまった騎手たち
先に紹介した通り、落馬事故によって騎手が亡くなってしまうという事例もあります。
本項目では落馬によって命を落としてしまった騎手5名を紹介します。
ジョージ・ウルフ
ジョージ・ウルフ騎手はアメリカ競馬界の騎手で、「アイスマン」の愛称で親しまれていました。
彼は糖尿病を患っていて無理な減量ができないせいもあって、騎乗数を絞っていましたが、アメリカの主要レースのほとんどを制しており、名実ともに当時アメリカ競馬界トップジョッキーの1人でした。
ところが1946年1月3日、サンタアニタパーク競馬場で開催されたレースに出走した際に落馬してしまい、その翌日に亡くなってしまいました。
この落馬事故はアメリカ競馬界に衝撃を与え、多くの競馬ファンがその死を惜しみました。
彼の功績を称え、1950年には「ジョージ・ウルフ記念騎手賞」という騎手賞が設立され、1955年にはアメリカ競馬殿堂入りを果たしています。
松若勲
松若騎手はデビュー年にいきなり14勝をあげるなど早くから注目されていましたが。
その期待に応えて2年目には18勝、翌年には8勝しますがその後の成績は芳しくなく、1970年には規定騎乗数すら到達していないこともあり騎手免許はく奪の恐れもありました。
しかし真面目な性格から騎手免許が無事更新され、心機一転新たな気持ちでレースに挑む日々を送っていました。
しかし1977年、突然その日が訪れてしまいます。
11月5日、この日は前日からの雨で馬場は不良馬場であり、とても滑りやすい状態でした。
松若騎手は第9レースに出走、前を追走しますが、3コーナーから4コーナーの中間あたりで突如前の馬が落馬、後続馬も避けきれず最終的に6頭が落馬する多重事故が発生してしまいます。
この事故に松若選手騎乗の馬も巻き込まれてしまい、松若選手は運悪くヘルメットが外れて頭を強打、頭蓋骨を骨折してしまい、病院に運ばれましたがすでに即死の状態でした。
大柳英雄
大柳選手はデビュー年こそあまり勝ち切れませんでしたが2年目にその才能を開花させ、重賞を含めて年間57勝をマーク、一躍若手の注目株となりました。
しかしその年の12月24日に出走したレースにおいて障害を飛び越えた際に騎乗していた馬が転倒して落馬、頭を強く打ち付けてしまいます。
すぐに病院に運ばれましたが、頭蓋骨骨折によって脳内出血してしまっており、懸命の措置の甲斐なく亡くなってしまいました。
岡潤一郎
岡潤一郎騎手はデビュー年にいきなり44勝を挙げ、その年の最優秀新人賞を獲得します。
翌年も46勝を挙げたほか、5連続騎乗勝利という偉業を達成するなど活躍、翌年にはNHK杯を制して初重賞制覇、さらにはあのオグリキャップに騎乗して宝塚記念に出走、秋にはエリザベス女王杯に出走してG1レースを初勝利するなど若くから新人離れした活躍をしていました。
しかし1993年1月、京都競馬場で開催されたレースにおいて騎乗していた馬が突如故障を起こしたことが原因で落馬、落馬の際にヘルメットが外れ、更に運悪く後続の馬に頭部を蹴られてしまいます。
外傷性クモ膜下出血、頭蓋骨骨折、脳挫傷、脳内出血という手の施しようのない状態であり、最終的には肺炎も発症し、24歳という若さで亡くなってしまいました。
その才能を今でも惜しむ競馬ファンは多く、生きていればあの武豊騎手のライバルになれると言われるほどです。
竹本貴志
竹本騎手は競馬学校を卒業したものの二度目の免許試験に不合格、その後騎手候補生としてトレーニングセンターで修行するも試験2日前に落馬してしまい試験を受けることができず、翌年の試験でやっと騎手免許を取得したという苦労人でした。
しかしその苦労が報われたのか、同年デビューの騎手のなかでは一番最初に勝利したジョッキーとなっています。
順調なスタートを切ったと思っていた矢先のことでした。
3月28日、中山競馬場でのレースにて騎乗していた競走馬が障害を飛び越えた際に突如脚を故障して転倒、その際に頭を強く打ってしまい意識不明となります。
すぐに病院に運ばれましたが、意識が戻ることなく4月2日にわずか20歳という若さで息を引き取ってしまいました。
騎手も競走馬も無事に完走することを願いつつレース観戦しよう
落馬は競走馬はもとより騎乗している騎手の命を奪うこともある大変危険な事故です。
レース中に落馬事故が発生するとその馬と騎手は失格となりますが、レース中に失格してもその馬券は無効とはなりません。
中には馬券を勝っている騎手が落馬した際に野次を飛ばすような競馬ファンも存在します。
しかし、もし競走馬または騎手が命を落としてしまえば、二度とレースを観ることはできません。
馬券代が無駄になってしまう無念さは分からないではないですが、まずは騎手も競走馬も全員無事に完走することを第一に願いつつレースを観戦するようにしたいものです。
まとめ
騎手はレースに出るだけが仕事ではありません。
時速70キロというスピードで走る競走馬の上で安定した姿勢を保つためには普段から体幹などトレーニングを積むことが必須ですし、営業活動や騎乗交渉もしなければいけません。
実績ある騎手になればなるほど仕事が増え、四六時中競馬に携わらなければならなくなります。
また、騎手という仕事は命がけの職業でもあります。
そもそも騎乗する競走馬自体が私たち人間とは比べ物にならないほどの力を持っているので、蹴られたり踏まれたりするだけでも大怪我に繋がります。
そして最も危険なのが落馬事故です。
落馬事故は騎乗している馬が突如故障したりするなど、その原因は事前に察知できないものであり、完全に防ぐことは不可能といっても過言ではありません。
落馬事故が発生すると、場合によっては予後不良で競走馬が亡くなってしまうこともありますし、落馬の際の打ち所が悪ければ騎手が死亡してしまうこともあります。
競馬のレースを観る際は、まずは人馬とも全員無事に完走できることを第一に願いつつ観戦するようにしましょう。