騎手はなぜ体重が軽い方が有利なのか?ハンデ戦や女性騎手についても解説
騎手はレースで勝つのと同じくらい体調管理も重要な職業です。
なぜならレースでは48〜58kg前後の幅広い斤量の馬に乗るため、軽い斤量でも騎乗できるように体重を抑えなければならないからです。
この記事ではレースの斤量の仕組みや、女性騎手に関する話題を紹介します。
騎手は体重が軽い方が有利?
騎手は軽い体重の方が様々な斤量の馬に騎乗できるため有利です。
騎手の平均は一般に50kg前後と言われていますが、実際には斤量から−2kgを目安に体重を維持しています。
なぜ2kgなのかというと馬の斤量には、騎手の体重に加えてゴーグルを除く全ての装着品が、斤量に該当する重量にカウントされるためです。
つまり馬に装着する鞍や騎手が着る衣服なども重量にカウントされ、これらの重量が全体で2kg程度になるため、騎手は1日の騎乗馬の中で最も軽い斤量の馬の−2kgを目安に体重を維持しています。
例えば1日の騎乗で最も斤量の軽い馬が52kgだったとすると、騎手はレースまでに体重を50kgまで落とす必要があります。
ですが実際の騎手の体重を見てみると50㎏以下の騎手というのは決して多くはありません。
例えば2021年リーディング1位のルメール騎手は公式で53kgとなっています。
ルメール騎手の場合は、55kg未満の斤量の馬に乗るためには減量が必要になりますが、実際には2021年の騎乗を見ると斤量54kg未満の馬には騎乗しておらず、これはおそらく体重を理由に断っていることになります。
体重を理由に騎乗を断るのは、ルメール騎手のように実績のあるトップ騎手だからこそできる行為ですが、実際に多くの騎手は、減量失敗が原因で騎乗できないことが無いようにギリギリの体重まで減量を行なっています。
ですから体重が軽い騎手の方が、減量の負担が少なく多くの馬に騎乗できるという点で有利です。
しかし軽量の騎手が重い斤量の馬に騎乗する際は、体に重量を背負うため通常の騎乗よりも騎手に負担がかかります。
過去のリーディング上位の騎手を見ても、平均体重が50㎏未満の騎手が、年間を通してトップクラスの活躍をするケースは近年はなく、騎手の平均体重は従来と比べ増加傾向にあると言われています。
レースに勝つという視点で馬の斤量が軽いのはもちろん有利ですが、騎手の体重が軽い方がレースで有利なのかと言うと決してそうではありません。
軽量の騎手が斤量の重い馬に騎乗する場合は、重りを背負うという点でむしろ騎手に負担が掛かります。
ハンデ戦の騎乗と騎手の体重
競馬のレースでは馬の背負う斤量はルールで定められていますが、ハンデ戦はJRAのハンデキャッパーが馬の実力から馬券に絡む可能性を考慮した上で、個別に斤量が設定される特殊なレースです。
現行のハンデ戦では最低で48㎏の軽量で出走することが可能で、上限斤量に関しては特に定めはありません。
ハンデ戦は荒れる可能性の高いレースという点から穴党には人気ですが、固い決着を望む本命党はむしろ不人気ともいえるレースです。
そして実は騎手もハンデ戦を好む騎手とそうではない騎手の2つに大きく分かれます。
騎手によってハンデ戦の好みが分かれる理由は、騎手の体重に大きく起因しています。
騎手の平均体重は50㎏前後と言われていますが、ハンデ戦では50㎏以下の斤量を背負う馬も多く、軽い斤量の馬には平均体重の50㎏では基本的に騎乗することができません。
ですからハンデ戦では斤量を理由に騎手が騎乗依頼を断るケースもあります。
小柄で普段の体重が50㎏を切っている騎手であれば、斤量を問わずに騎乗できるだけでなく、体重を理由に断られた馬の騎乗依頼が来るケースもあるため、軽量騎手ほどハンデ戦を好む傾向があります。
逆に平均体重よりも太い騎手は斤量面からハンデ戦を敬遠する傾向が高く、特にトップクラスで活躍する騎手は、ハンデ戦は余程斤量が自分の体重に近くない限り騎乗を断るケースが多いです。
ただ時には有力馬に乗るために、騎手が過酷な減量をした上で騎乗するケースもあるため、このような場合は騎手が勝負掛かりの騎乗を見せることも多く、馬券的には狙い目であるという点は覚えておきましょう。
騎手と斤量の仕組み
騎手と斤量の仕組みはレースによって大きく異なります。
斤量が軽いほど馬は有利になり、一般に斤量が1㎏減ることで、距離に応じて0.3~0.5秒程度時計が縮まると言われるほど、斤量が馬に及ぼす影響は大きく、馬の実力が同じであれば軽い斤量である馬の方が、必然的に勝ちやすくなります。
では実際に騎手に適用される斤量の減少に関して詳しく見ていきましょう。
騎手により斤変わる斤量には見習騎手及び女性騎手に適用される減量があります。
具体的に見習騎手の減量は以下の通りです。
30勝未満 | 30勝以上50勝未満 | 50勝以上100勝未満 | 100勝以上 | |
男性新人騎手 | -3㎏ | -2㎏ | -1㎏ | 斤量減なし |
女性新人騎手 | -4㎏ | -4㎏ | -3㎏ | -2㎏ |
デビューしたばかりの騎手は、現役の騎手とのハンデを埋めるために一定期間斤量が優遇されます。
この制度は減量制度と呼ばれ30・50・100勝という節目の勝利数に達するか、もしくは5年以上の現役生活を経過するまで規定は適用されます。
また女性騎手は節目の勝利数が男性騎手と比較すると優遇されており、デビューと同時に男性見習騎手と比較して-1㎏の斤量が適用され、30勝を達成しても-4㎏のままで騎乗することが可能です。
そして男性見習騎手は50勝を達成すると減量は-1㎏のみになりますが、女性騎手は50勝を達成すると1㎏斤量が増えて-3㎏の減量が適用されます。
さらには100勝を達成した段階で男性騎手は斤量の優遇が無くなりますが、女性騎手は100勝達成以降も、常時-2㎏斤量が優遇された状態で騎乗が可能です。
この見習騎手及び女性騎手の斤量規定は一般競走のみに適用され、GⅠや重賞を含む特別競走では、見習騎手や女性騎手であっても減量が適用されず、レースに応じて定められた斤量で騎乗する必要があります。
2022年現在では見習騎手を含め女性騎手の斤量が非常に優遇されており、女性騎手が騎乗する際は斤量の恩恵で思わぬ人気薄の馬が、軽い斤量を活かして馬券対象になる可能性があります。
ですから馬券的に斤量の恩恵を受けることのできる一般レースでの女性騎手は非常に狙い目です。
女性騎手はレースでは有利?
2022年に4人目の女性騎手がデビューし現在JRA所属の女性騎手は4人いますが、騎手という職業も女性にとって将来の職業の選択肢の1つとなりつつあります。
では果たして女性騎手は実際にレースでは有利なのでしょうか。
現行のルールで女性騎手は、通常よりも2㎏減の斤量で馬に騎乗することが可能なため女性騎手は斤量面から有利です。
なぜなら斤量が1㎏減ることで、一般にタイムが0.3~0.5秒縮むと言われており、女性騎手が乗るだけで2㎏斤量が減ることから、馬のタイムが1秒縮まる可能性が高く、斤量の恩恵で馬の実力を発揮できる可能性が高いからです。
ただし特別競走とハンデキャップ競走に関しては、この恩恵が適用されることなく、定められた斤量で乗らなければなりません。
女性騎手の斤量2㎏減という恩恵を考慮し馬券に活かすためには、前半に行われる一般競争を中心に狙いを定めることが重要です。
では次に2022年現在JRA騎手として所属している4人の女性騎手の詳細を簡単に紹介していきます。
現役の女性騎手・藤田菜々子
藤田菜々子騎手は2016年に16年ぶりとなる女性騎手としてデビューし、2018年にはJRA女性最多勝利記録である35勝を久々に更新するなど、現在の女性騎手活躍の先駆者と言える存在です。
2019年にはフェブラリーSでJRA所属女性騎手で初となるGⅠ初騎乗、さらに同年の暮れには重賞初勝利を上げ、平地競争では初となる女性騎手による重賞制覇という快挙を達成します。
藤田騎手の活躍に応える形でJRAは2019年に女性騎手を対象とした斤量制度の改革を行います。
これは上述の通り女性騎手は一般レースで2㎏減のハンデを設けるという斤量制度の見直しです。
そしてこの見直しは当時適用されていなかった見習騎手時代の藤田騎手のケースと異なり、見習い騎手にも適用され、女性に限り4㎏減の恩恵を受けることが可能になりました。
見習い騎手は通算30勝達成で3⇒2㎏減に、通算50勝達成で2⇒1㎏減、通算100勝達成で1㎏⇒減量0というのがそれまでのルールです。
藤田騎手も見習騎手時代はこのルールの元で騎乗しています。
しかし改訂以降は、女性騎手に限ると通算50勝達成で4⇒3㎏減、通算100勝達成で3⇒2㎏減、以降永続的に2㎏減が適用される現在の形へと変更になります。
それまでもJRA所属の女性騎手はいましたが、女性の身体能力を考慮した斤量面の改訂はありませんでしたが、藤田騎手の活躍はこの改訂を行うための大きなキッカケとなりました。
斤量の改訂という女性騎手の今後の活躍の礎を築いたという点で、藤田騎手は女性騎手活躍の先駆けともいえる存在です。
現役の女性騎手・古川奈穂
(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=_HtovYi0SfM)
古川奈穂騎手は2021年にデビューし、2022年現在も減量騎手として名門厩舎である矢作厩舎に所属する女性騎手です。
女性騎手としては上述の改訂以降初の4㎏減で騎乗した騎手ですが、デビュー後の2021年4月に肩の故障により、5ヶ月に及ぶ長期戦線離脱の影響もありこの年は僅か7勝に終わります。
2022年現在も地道に勝ち星を積み重ねており、特に所属厩舎である矢作厩舎は馬質も高いことで、実力のある馬にのるケースが非常に多いのが彼女の特徴です。
特に昨年の7勝中6勝は所属厩舎の馬による勝利で、矢作厩舎の馬に騎乗する際の古川奈穂騎手は、他厩舎所属馬騎乗時より成績が優秀なため馬券的にも狙い目となります。
今後も馬質の高い馬に数多く乗ることで経験を積めば今後が楽しみな女性騎手の1人です。
現役の女性騎手・永島まなみ
(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=tfKKJJw9hFs&t=686s)
永島騎手は2021年に古川騎手と同期でデビューした現在現役3人目の女性騎手です。
地方競馬である園田競馬場の現役調教師で元騎手でもある永島太郎氏を父に持ち、5歳の時から父に憧れて乗馬を始めるなど永島騎手は競馬一家に育ちます。
騎手デビューとなった2021年は同期の古川騎手と同じく7勝に終わりますが、古川騎手と比較すると馬質が大きく劣る中で自厩舎では僅か3勝、残りの4勝は他の厩舎であげ、地道に勝ち星を積み重ねている形です。
特に馬質面から人気傾向の高い古川騎手と比較すると、人気薄の馬に乗るケースが非常に多く、勝率や複勝率という点からは古川騎手と差がつく形となりました。
ですが馬質が悪い中でも2022年は6月時点で6勝を上げており、昨年よりは技術面の成長が伺えます。
デビューから2度の単勝万馬券による勝利を演出するなど、本命サイドの馬よりも穴を開ける女性騎手として、一部の競馬ファンから人気があるのが彼女の特徴です。
現役の女性騎手・今村聖奈
(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=3t2ETQEKwdg)
今村騎手は2022年に新人騎手としてデビューの現在最も若手の女性騎手です。
永島騎手と同じく元騎手を父に持ち、小学5年生の頃から騎手を目指していたと言われており、競馬学校時代から騎乗技術の高さが注目され、多くの競馬関係者から将来が期待されてのデビューとなりました。
デビュー週こそ同期で騎手を父に持つ角田大河騎手に遅れを取りますが、翌週に初勝利を挙げると新人ながらコンスタントに勝ち星を積み重ねます。
そして2022年7月には重賞初騎乗を小倉競馬場のCBC賞で果たしますが、48㎏という軽量を活かし女性騎手ながらも重賞初騎乗初制覇の快挙を、1分5秒8というレコードタイムで達成することになりました。
夏競馬が始まった段階で、最優秀新人賞受賞に最も近い位置にいる将来の楽しみな女性騎手ですが、2022年は彼女が初年度でどこまで優秀な成績を残すかに注目が集まっています。
まとめ
2022年現在ではJRAだけでなく地方競馬にも女性の減量が適用されており、今後女性の職業の1つとして女性騎手が増えのではないかと思います。
特に見習女性騎手はデビュー時よりも、ある程度レースに慣れてきた30~100勝の間に、男性見習騎手と比較すると斤量面では大きく優遇されています。
女性騎手を狙う場合は闇雲に馬券を買うのではなく、一定の実力が備わってくる時期に大幅な斤量減が期待できる馬を狙うことがポイントです。