競走馬の種付けの意味は?頭数や何歳まで可能かなど徹底解説!
競馬はブラッドスポーツと言われています。
それは競走馬が父親や母親、さらに母の父がどのような馬なのかによって競争能力が大きく変わるためです。
速い血統の馬は速く、スタミナのある血統の馬は長距離が得意という傾向があります。
そもそもサラブレッドは自然界に1頭も存在していません。
より速く強い馬を作るために、イギリス馬とアラブ馬を掛け合わせたのがサラブレッドの始まりです。
その後さらに改良を重ねて、スピードやスタミナを重視した馬が誕生しました。
そして良い血統を繋いでいくために種付けが行われますが、その内容はどのようなものなのでしょうか。
この記事は競走馬の種付けの意味や内容を深堀し、種付けに重要な役割を果たす種牡馬について解説します。
競走馬の種付けって何?
種付けという言葉から何を連想するでしょうか。
種を付けるということから、なんとなく繁殖に関係するものと想像できます。
種付けは優良種の雄と雌を交配させることで、種は精子を植物の種子に例えたものです。
ここで大事なのは優良種を交配させるということです。
優良ではない種は残す必要が無いというのが、種付けの基本的な考え方となっています。
そのため種付けできる牡馬の数はかなり絞られます。
サラブレッドは年間約7000頭が生まれ、そのうち約3600頭が牡馬です。
そして種付けができる種牡馬になれるのは、わずか30頭ほどで1%にも届きません。
とても厳しい競争社会ですね。
このように勝ち上がった1%の超エリートの種が、脈々と繋がれ今日に至っています。
そうして生まれてくる馬たちは、確率的に見てより優秀になっていくはずですね。
確かに近年の馬は競争能力の進化が感じられますが、一方で一定数の全く走らない馬もいることも事実です。
優良種を掛け合わせても能力のない馬が誕生するあたり、種付け繁殖にはまだまだ未知の部分があるのかと思います。
それでは種付けについてより詳しく見ていきましょう。
種付けの時期は?
競走馬の種付けは2月〜7月頃までで、多くは4月〜5月に行われます。
これは仔馬が生まれる月から逆算し、4月〜5月が適当と考えられているからです。
受胎した繁殖牝馬は約11ヶ月後に出産します。
4月だと来年の3月、5月だと来年4月の計算です。
この時期に出産を迎えるのは、競争馬は早生まれの方が圧倒的に有利ということからきています。
競走馬は2歳からレースに出走しますが、年齢は数え年です。
1月2月に生まれても、11月に生まれても同じ2歳として扱われます。
人間界では新年度スタートが4月のため、3月生まれは損などと言われています。
特に幼少期においては、4月生まれと3月生まれでは大きな差があると感じられているようです。
そのような違いが競走馬ではより明確に表れます。
それというのも競走馬は人間よりも進む時間が速いので、2歳馬は人間でいうと中学・高校生くらいにあたります。
この時期の数ヶ月の違いは、とても大きいと言えますね。
このようなことから、種付けの時期は4月~5月に集中するのです。
種付けはどうやるのか
種付けは種牡馬が繁殖牝馬にマウントし、1分ほどで完了します。
これを見るととても簡単に感じますが、種付けを行うスタッフはかなり大変なようです。
競走馬は人工授精が許されていないので、全て自然交配となります。
そして人の介添えが無いと難しいため、種付けの作業には危険を伴うのです。
種牡馬によって種付けの際のクセや姿勢・体格などがいろいろあり、その都度調整していく必要があります。
例えば体格の大きな繁殖牝馬に対しては、種牡馬の足元に畳を重ねて置いたりして高さを調整します。
またマウントの際に踏み込みすぎてしまった種牡馬は後ろに倒れそうになるので、スタッフが腰のあたりを支えてフィニッシュさせるそうです。
このように種付けは、馬にとっても人にとっても大変な行為であることが分かります。
当て馬の役割
種付けというステージには、種牡馬と繁殖牝馬のダブル主演の他、当て馬という名脇役がいます。
当て馬の役割は、繁殖牝馬を性的に興奮させ発情させるものです。
繁殖牝馬が発情しないまま種付けを行おうとすると、マウントしてくる種牡馬を嫌って後ろ脚で蹴られてしまう場合があります。
蹴られた場所が悪いと大怪我に繋がりますし、最悪の場合は繁殖能力を失ってしまうこともあります。
当て馬はそうならないように、繁殖牝馬をその気にさせるのが仕事です。
とても辛そうな仕事ですが、当て馬は需要の少ない種牡馬や廃業した元種牡馬がその役目を担っています。
当て馬がかわいそうなのは、繁殖牝馬をその気にさせても決して種付けできないことです。
馬がそれが自分の仕事と割り切れるわけもなく、やりきれない毎日を過ごしているのだと想像できます。
ご褒美のない仕事の連続ではモチベーションの維持が難しいため、たまには種付けもさせてあげるようです。
しかし繁殖牝馬がそれで妊娠してしまっては、優良な血が引き継がれません。
そのため妊娠の可能性の低い高齢馬があてがわれるようですが、なんともせつない仕事ですね。
種付けの成功率
苦労して種付けをして全部が生まれればいいのですが、種付けの成功率(受胎率)は70%前後と言われています。
残りの30%ほどは受胎しないようです。
高い種付け料を支払って、大変な作業を行って受胎しないとなるとガッカリです。
そんな時に高額の種付け料はどうなるのか気になりますね。
受胎しなかった場合の取り決めは各契約で異なるようですが、だいたい以下の3つに分けられます。
・再度種付けのチャンスがある(翌年の場合もあり)
・種付け料の返還(全額もしくは一部)
このように契約によって処遇にかなりの差がありますね。
種牡馬は2〜3ヶ月の間で200回ほど種付けが行われますが、繁殖牝馬は1年に1頭しか受胎できません。
そんなことからも繁殖牝馬には、多くの救済措置があるといいですね。
種付けは何歳まで
競走馬の種付けは、種牡馬が元気で活躍する馬を作れれば30歳でも可能なようです。
馬の30歳を人間でいうと85歳くらいに当たりますが、人間も元気な方はいくつになっても元気なのでいけるような気がします。
しかし元気なだけではだめで、活躍する馬を作れればというところが肝心です。
子供たちが活躍しなければ、自然と種付けの回数も減っていきいずれは引退となります。
また種付けが比較的多い年齢は、種牡馬が8歳〜10歳の頃です。
ところが産駒の成績が優れているのは、12歳〜17歳の時というデータもあります。
しかしこのことで単純に、種牡馬の活躍時期が高齢化したとは言えません。
これは10歳前後までの種付けで活躍する馬を輩出できなかった種牡馬は、引退することが多いことと関係しています。
つまり12歳以降も種付けできる馬というのは、種牡馬の中でもさらにエリートであると言えるのです。
そんな種牡馬の産駒なのですから、ある程度活躍しても当然と言えますよね。
種牡馬歴代ランキング
実力のある種牡馬の種付け料は高額だと聞きますが、日本での種付け料歴代第1位はディープインパクトの4000万円です。
またJRAの通算勝利数では、サンデーサイレンスが1位となります。
順位 | 馬名 | JRA通算勝利数 | 最高種付け額 |
1 | サンデーサイレンス | 2749 | 2500万円 |
2 | ディープインパクト | 2724 | 4000万円 |
3 | キングカメハメハ | 2189 | 1200万円 |
4 | ノーザンテースト | 1757 | 未発表 |
5 | ブライアンズタイムタイム | 1711 | 未発表 |
獲得賞金順のランキングでは、2022年までディープインパクトが11年連続で首位となりました。
ディープインパクトは父であるサンデーサイレンスの強さを、さらに強化させて受け継いだともいえます。
そんなディープインパクトも2019年に、17歳とまだまだ種牡馬として活躍できる年齢で死亡しました。
ディープインパクトの新たな産駒が見られないのは残念ですが、強い血は子供たちに受け継がれています。
ディープインパクトの産駒が、種牡馬として活躍するのが今から楽しみです。
注目の種牡馬コントレイル
(引用元:JRA)
2023年5月現在の種牡馬リーディングは、ロードカナロアがトップです。
ディープインパクトが2位、ドゥラメンテが3位につけています。
また晩成型のモーリスは6位で、産駒が年齢を重ねるごとにじわじわ上昇していて注目の種牡馬です。
そして2025年に産駒が出走を開始する新種牡馬、コントレイルに注目が集まっています。
なぜコントレイルが注目なのか、産駒はどのような走りを見せてくれるのかを見ていきましょう。
コントレイルの血統
コントレイルの父はディープインパクトです。
そしてディープインパクトの父はサンデーサイレンスということで、JRA通算勝利数1位と2位の記録を持つ最強の血統です。
母はロードクロサイトで、競走馬時代の戦績は7戦0勝と全く活躍できませんでした。
そしてロードクロサイトの産駒は、コントレイル以外は2勝クラスがやっとの戦績でパッとしません。
それが突然コントレイルのような強い馬を産むのですから、繁殖の難しさを感じてしまいます。
コントレイルはディープインパクトの最高の後継者とも言われているので、どのような強い産駒が出てくるのか楽しみです。
もしかしたらコントレイルの誕生と同じように、華やかな戦績のない繁殖牝馬との掛け合わせでスーパーホースが誕生するかもしれませんね。
コントレイルの戦績
コントレイルの戦績は11戦8勝、2着2回3着1回と全て馬券に絡むものでした。
そして父のディープインパクトと同じく、無敗のまま3冠馬になっています。
どのポジションにいても最後の直線で必ず突き抜けてくる豪脚は、血統による天性のものだと感じます。
しかしコントレイルは3冠達成後ジャパンカップ2着、明け4歳の大阪杯で3着に敗れます。
GⅠレースで2着3着なので決して弱いわけではないですが、期待が大きかっただけにコントレイルの早熟説を言う解説者もいるほどでした。
夏を休養にあて迎えた天皇賞・秋では、単勝2.5倍の1番人気に支持されました。
しかし3歳でチャレンジしてきたエフフォーリアを捉えられず、2着に敗れます。
このまま現役を終わってしまったら、今のコントレイルの評価はなかったかもしれません。
そしてコントレイルが引退レースとして選んだのが、ジャパンカップでした。
ダービー馬シャフリヤールを迎え撃つ形で行われた一戦は、引退レースということもあり単勝1.6倍の圧倒的人気を背負います。
中段で折り合ってレースを進めたコントレイルは、直線に向くと能力全開となり最速の上がり33.7で先頭でゴールを駆け抜けます。
2馬身という着差以上に強いレースで、早熟説を一蹴した結果となりました。
このレースにより、コントレイルの評価は再び上がったと言っていいでしょう。
コントレイルの種付け料
コントレイルは2022年より種付けを開始しましたが、その時の種付け料は1200万円でした。
これは父のディープインパクトの初年度と同額です。
ディープインパクトの戦績は14戦12勝で、圧倒的な勝ち方からコントレイルより上の存在と考えられます。
それでも同額の1200万円の値がつくのですから、血統的な評価・期待値が高いことが分かります。
ディープインパクトは最終4000万円まで種付け料を上げました。
コントレイルの産駒が3代に渡って無敗で3冠を達成したら、種付け料はどこまで上がるのか注目したいところです。
種付け頭数は?
コントレイルの2022年の種付け頭数は193頭でした。
初年度から多くの種付けをしたことから、コントレイルの生殖能力は心配なさそうですね。
またコントレイルは種付けが上手なようで、馬格の大きな繁殖牝馬に対しては体勢を変えてチャレンジしてみるなど学習能力が高いということです。
さらに受胎率も高いようなので、コントレイルは種牡馬としても優秀ですね。
産駒の特徴を予測
コントレイル産駒の能力は未知数ですが、脚部に不安を抱えながらもオールラウンダーとして活躍する要素があります。
コントレイルは幼少期から脚元に不安がありました。
4歳時に大阪杯3着のあとに宝塚記念を回避したのも、疲れより脚部不安があったと矢作芳人調教師は話しています。
そんなことから、コントレイルの産駒も脚部の不安を引き継ぐ可能性があります。
間隔を開けながら、大事に出走させることが必要になるかもしれません。
一方でコントレイルの母ロードクロサイトの血統は、芝よりもダートを得意としていました。
産駒は父系の影響を大きく受けるとはいえ、コントレイルの芝適性は特別なものとも言えます。
種付けする繁殖牝馬の血統にもよりますが、コントレイルの産駒がダート路線で活躍する可能性も考えられます。
かつてのアグネスデジタルのような芝・ダートどちらのGⅠも勝てる馬が現れるかもしれません。
そしてスピードとパワーの両方を備えた産駒ならば、日本競馬の悲願である凱旋門賞の勝利も考えられますね。
コントレイルの産駒に注目です。
競走馬の種付けについてのまとめ
この記事は競走馬の種付けについて解説してきました。
この記事をまとめると次のようになります。
・種付けの多くは4月~5月に行われる
・種付けは種牡馬が繁殖牝馬にマウントし1分程で終わる
・当て馬は繁殖牝馬を発情させる役割
・種付けの成功率は70%程で、種牡馬は元気で需要があれば30歳位まで種付け可能
・種牡馬の種付け料歴代1位はディープインパクトの4000万円
・新種牡馬としてコントレイルが注目されている
・コントレイルの初年度種付け料は1200万円で193頭に種付け
・コントレイルの産駒は脚部不安の可能性がある
種牡馬は需要と供給のバランスなので、生き残るためには良い産駒を生産し続ける事が必要です。
ディープインパクトでさえ、初年度の種付け料1200万円から900万円まで下がったことがありました。
コントレイルの初年度種付けは193頭でしたが、これは1年間ではなく種付け期間の数ヶ月に凝縮されていることを思えば、やはりすごい数ですね。
この仕事に携わるスタッフも大変な重労働だろうと推察します。
そうして苦労して生まれてきた馬たちには全て活躍してもらいたいですが、子孫を残せるのは1%未満という厳しい現実があります。
競馬ファンとしてはせめて馬券を購入して、出走までこぎ着けた馬たちを応援したいと思います。