競馬で掛かるとはどんな意味?厩舎や騎手の対応方法を紹介
テレビで競馬中継を見ていると、「少し掛かり気味でしょうか」という実況を聞くことがあります。
またレース後の騎手のインタビューでも、「向こう正面で掛かってしまって」などとコメントされます。
競馬で「掛かる」とはどんな意味なのでしょうか?
あまり良い意味で使われることは少ない感じで、できれば掛からない方が馬にとってはいいように思えます。
この記事は競馬で掛かるとはどんな意味なのか、また掛かる馬に対して厩舎や騎手はどのように対応しているのかを紹介します。
掛かるの意味は?
競馬は馬7対騎手3と言われます。
これはレースで勝つために必要な馬と騎手の比率のことで、騎手が上手に馬を誘導することで馬の能力が100%発揮されると考えられています。
そのためレース中は、馬と騎手の呼吸がぴったりと合っている必要があるのです。
特に気性の荒い馬は掛かることが多く、その際はどんなに能力があったとしても最後の直線でバテてしまいます。
気性の荒い馬に騎乗する騎手はスタートの出遅れを注意して、レース中も掛からないように乗らなければならないので大変です。
「馬とケンカしないように乗りました」という騎手のコメントがあるくらいなので、騎手にとって掛からずに乗ることがどれだけ重要かが分かりますね。
どんな状態になる?
馬が掛かった状態になると、口をあけてイヤイヤをするように首を振っていることが多いです。
その時の騎手は手綱を引っ張っていることが多く、馬の走りにストップをかけています。
掛かった時の馬は興奮状態で、とにかく前へ前へ力の限り走ろうとします。
ここで抑えないとバテてしまうので騎手も様々な手を使いますが、一度掛かってしまった馬を抑えるのはかなり難しいようです。
凱旋門賞に最も近かったと言われる名馬オルフェーヴルは、気性の荒さもトップクラスでした。
単勝1.1倍に支持された阪神大章典でのオルフェーヴルは、2週目の3コーナーで掛かり、コースの外へ向かって走り出したのです。
その時に騎乗していた池添謙一騎手は、「どうにも制御が効かなくなりました」と話しています。
怪物級の馬が掛かってしまうと、もう手が付けられなくなるのですね。
掛かるの反意語は?
掛かるのは良いことではないことが分かりましたが、その反意語はどういったものなのでしょうか。
掛かるの反意語は「折り合っている」で、馬と騎手の呼吸が合っている状態のことを言います。
向こう正面を走っている馬が折り合っている時は、まるで騎手と話をしているような一体感があります。
騎乗している騎手の姿勢は全くブレず、静かにレースを進めているように見えます。
競馬用語で「脚を貯める」というのがありますが、それはこのような時を言うのでしょう。
道中で脚を貯められると、最後の直線で瞬発力が発揮できるのです。
JRAでは2023年3月から騎手の視点でレースが見られる、ジョッキーカメラの配信を始めました。
オークスを勝ったリバティアイランドの川田将雅騎手のカメラ映像は、向こう正面ではほとんど乱れていません。
きっちりと折り合えていることがわかり、それが最後の直線での瞬発力を生んだということがよく分かります。
ハミを噛むことのメリット・デメリット
競馬の用語は難しいものが多いですが、「ハミを噛む」というのもその一つではないでしょうか。
ハミとは馬の口に入れる金属の棒のような馬具で、騎手の持つ手綱と繋がっています。
騎手は手綱を操作してハミに意思を伝え、馬はハミを通して騎手の意思を受け取るのです。
そのような時に馬は気持ちが前向きになっていることが多く、走りたいという意思を表しているといわれています。
そしてこのハミを噛むことが、掛かることと大きく関係しているのです。
ハミを噛むことのメリットとデメリットを紹介します。
ハミを噛むメリット
ハミを噛むことのメリットは、馬が前向きで推進力が生まれることです。
競馬では馬が自分から走ろうとすることはとても大事で、それが結果に大きく影響します。
ハミを噛むの反意語としてハミを抜くという言葉がありますが、これはハミがうまくはまっていない状態です。
このような時は、騎手の意思が十分に馬に伝わらず操作が難しい状態になっています。
ハミを噛むデメリット
ハミを噛むことのデメリットは、馬が力んでしまってバテてしまう場合があることです。
ハミを噛んでいる時はずっと力が入っているので、馬の体力の消耗度が激しいといわれています。
気性の荒い馬だとこの状態が掛かっている状態で、ほとんどの場合最後の直線では失速してしまいます。
難しいのは普段おとなしい馬が道中ハミを噛んでいる場合、掛かってるようには見えなくても実際は体力を消耗している場合があることです。
この見分け方はとても難しいですが、レースではハミを噛まずリラックスして走る時間も必要なようです。
掛かる馬の修正方法
気性が荒くよく掛かってしまう馬は、その荒々しい力をレースに直結できれば好成績を残すことも可能です。
そのため厩舎では掛かる馬に対し、様々な方法で修正しようとしています。
せっかく地力がある馬なのに、それが活かせていないのはもったいないですよね。
厩舎が行っている掛かる馬の修正方法を、2つ紹介します。
悪いクセをやらせない
掛かる馬の修正方法の一つ目は、気性の荒い馬に悪いクセをやらせないようにすることです。
例えばハミが馬に合っていない場合があり、馬が力の入れ具合を間違ってしまうことがあります。
そのような時は、ハミを変えてしっかりと噛みあうように設定します。
これだけのことで、馬が見違えるほど落ち着くことがあるようです。
またゆっくり走る練習を繰り返して、安定した走り方を馬に覚えさせることも効果的です。
さらに他の馬が少ない時間に乗ったり、なるべく併せ馬をしないようにしたりします。
このように馬に悪い掛かりぐせをやらせないように、トレーニングを続けていきます。
しかしそのような努力をしてもレースになると興奮して、やはり掛かってしまうこともあるのですから難しいですね。
悪いクセをやらせて修正
掛かる馬の修正方法の二つ目は、悪いクセをやらせた後で修正することです。
悪いクセをやらせて、それは良くないことだと教えます。
実際に併せ馬をして馬を掛からせ、それでも折り合うように教えていくそうです。
前述の方法よりも強制力があり、これで修正されればレースでも大丈夫そうです。
しかしこの方法にはデメリットもあって、強制的に訓練していくことにより馬がレースで全く走らなくなってしまうこともあります。
気性の荒さも馬の個性なので、それを抑え込むことは馬のやる気を無くしてしまうことにもなるのですね。
掛かった時の騎手の対応
厩舎側はレース前にいろいろな努力をして、レースで馬が掛からないように調整します。
それでも気持ちが高ぶってしまった馬はレースで掛かり、能力を最大限に発揮することができません。
馬がレース中に掛かった時は、騎手の操縦が難しくなります。
そうするとレースで勝てないだけでなく、騎手が馬から振り落とされる可能性もあり危険です。
そうならないために騎手は馬がレース中に掛かった時、瞬時に判断して3つのことを試してみるそうです。
馬が掛かった時の、騎手の3つの対応方法を紹介します。
ストップをかける
馬が掛かった時の対応方法で最もポピュラーなのが、手綱を引っ張ってストップをかけることです。
馬が行きたがっているところを騎手が手綱を引き、体重を後ろにかけて馬の上で立ち上がるような姿勢になります。
その時の馬は首を振って騎手の指示をふりほどこうとし、より前へ行こうとします。
最終的には騎手に従いおとなしくなることが多いのですが、だいぶ体力を使ってしまったと感じます。
ハミを外す
レース中に掛かった馬に対して、ハミを外すという対応も有効なようです。
馬がハミを噛んでいる時は、常に力が入り前へ進もうとしています。
掛かっている馬もハミを噛んでいるので、外して自由にし、カリカリした興奮状態の馬をリラックスさせます。
しかしそうすると騎手の指示が馬に伝わりにくくなるので、さらに暴走するというリスクもあります。
そこを騎手がどう判断するのか、その時々の状況で決めていくのでしょうね。
馬の後ろに入れる
掛かった時の馬は騎手の指示を受けきれず、前へ走り続けたいと思っています。
そこで騎手は他の馬の後ろに入れて、物理的に掛かった状態を修正しようとします。
馬は前へ走り続けたいのですが、前にいる他馬に邪魔され思うように進めません。
そして前の馬のリズムで走っているうちに、掛かっていた馬も落ち着いてくることがあります。
C.ルメール騎手はこれが上手で、いつの間にかインコースに誘導し他馬の後ろに入れてしまいます。
しかもそれがとても自然な流れになっていて、トップジョッキーの技術にはスマートさを感じますね。
掛かりやすい馬2頭紹介
血統からも元々掛かりやすい気性の荒い馬というのがいます。
オルフェーヴルやゴールドシップはGⅠ馬でありながらも、掛かって負けてしまうこともありました。
掛かった時に消耗する力をレースに繋げられたら、もっと勝てるようになると思います。
ここではサイレンススズカとメイケイエールの2頭を見ていくことで、掛かる馬の特徴を紹介します。
サイレンススズカ
サイレンススズカは1997年にデビューし、新馬戦を勝ったもののその後は掛かるレースが続きました。
2戦目の弥生賞では気性の荒さが出て、スタート前にゲートの下をくぐってしまいました。
その後500万下、オープンと連勝しますが、GⅠレースでは結果を出すことができません。
それまで道中は2・3番手に控えて直線で抜け出すという競馬でしたが、途中でどうしても掛かってしまい直線で力を発揮できませんでした。
それが9戦目の香港国際Cで武豊騎手が騎乗してから、馬が一気に変わってきました。
もちろんサイレンススズカが成長して、気性の荒さが緩和されてきたこともあるでしょう。
しかし最も大きかったのは、武豊騎手の騎乗方法にあると言われています。
武豊騎手は行きたがるサイレンススズカを抑えず、行きたいだけ行かせるという戦法を取りました。
するとサイレンススズカは、水を得た魚のように元気に馬場を走り、逃げ続けます。
レース前半を暴走ともいえるペースで逃げても、後半で衰えることなくゴールしてしまうのです。
そしてバレンタインSから6連勝して、GⅠ馬の仲間入りをしました。
掛かる馬を修正するには、その馬に合った騎乗方法を見つけ出すことも大事なのですね。
メイケイエール
メイケイエールは掛かる馬の現役馬代表と言ってもいい馬です。
折り合っている時は能力を発揮し重賞レースも勝ちますが、掛かると二桁着順の惨敗になることもしばしばです。
2021年キーンランドCで7着に敗れた際に騎乗した武豊騎手は、難しい馬とコメントしました。
武豊騎手とメイケイエールのコンビは、それまでに重賞を3勝もしていました。
そんな武騎手でも難しい馬とコメントするほど、乗るのが大変な馬なのだと思います。
また2022年の京王杯スプリングCで勝った際に池添謙一騎手は、「いやーきつかったですね」とコメントしました。
この日のメイケイエールは、道中やや口を割りながら進んでいました。
そこを池添騎手がなだめながら脚を貯め、直線の瞬発力に繋げて勝利に導いたのです。
2023年のメイケイエールは高松宮記念12着、安田記念15着と大敗してしまいました。
池添騎手は掛かることは想定内だが、気持ちが前を向いていないとメンタル面を指摘しています。
レース中に抑えられすぎて、走る気を無くしてしまったのかもしれません。
しかし能力は高いので、人気が落ちた後のレースがメイケイエールの狙い時かもしれませんね。
競馬で掛かるの意味はのまとめ
この記事は競馬で掛かるの意味について解説してきました。
この記事をまとめると次のようになります。
・馬が掛かると口をあけてイヤイヤをするように首を振る
・掛かるの反意語は折り合っている
・ハミを噛むは馬がしっかりハミをくわえている状態
・ハミを噛むメリットは馬に推進力が生まれる
・ハミを噛むデメリットは馬が力んでバテてしまうことがある
・厩舎は掛かる馬を悪いクセをやらせないこと・やらせることで修正
・騎手は掛かる馬をストップをかける・ハミを外す・馬の後ろに入れて修正
・サイレンススズカは騎乗方法の修正で掛かることを克服
・メイケイエールは能力はあるが大敗もする
気性が荒くレースでよく掛かる馬に対して、厩舎や騎手が大変な努力をしていることが分かりました。
馬の数だけ個性があるわけで、その全てを把握して仕上げ、騎乗するのは大変ですよね。
それでも馬としっかり向き合い、能力を出し切れるように修正する厩舎関係者には頭が下がります。
また手綱1本で馬とコミュニケーションを取る騎手もすごいです。
気性の荒い馬をどう仕上げて来たか、また掛かった馬を騎手はどう導くのか、そんな所も競馬の魅力ですね。