競馬の落鉄とは?レースへの影響と原因について解説

競馬で落鉄とは何?レースへの影響と原因について解説

この記事は競馬で落鉄とは何なのかを、初心者にも分かるように解説します。
皆さんは、騎手が「落鉄の影響があったかもしれません」と言うのを聞いたことがあるでしょうか?
これはレース終了後にコメントされるものですが、1番人気に支持された馬が負けた場合に発信することが多いです。

ところで、落鉄って一体何なのでしょうか?
鉄が落ちるということなので、なんらかの馬具に関係がありそうですね。

そして落鉄すると、少なからずレースに影響があるように騎手はコメントしています。
この記事では落鉄とは何か、落鉄によるレースへの影響を様々な角度から解説していきます。

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競馬で落鉄とは何か?

競馬で落鉄とは何か?

競馬で落鉄というとどういうことを意味するのでしょうか。

落鉄とは
蹄鉄と呼ばれる馬具が外れてしまうこと、を言います。

蹄鉄は馬の脚の先に装着する馬具の一つで、人間でいうとシューズのような役割になります。
人間でも走っている最中にシューズが脱げたら大変ですよね。

思い出すのは1992年のバルセロナオリンピック男子マラソンで、8位に終わった谷口浩美さんです。
谷口さんはメダル候補とも言われていましたが、給水所で他の選手に踵を踏まれシューズが脱げてしまったのです。

そのタイムロスもあり8位となってしまいましたが、踏んだ選手を責めるのではなく「こけちゃいました」とおどけた谷口さんに、日本国民はあたたかい拍手を送りました。
競馬でも落鉄は大きな影響がありそうですが、まずはその原因を見ていきましょう。

落鉄の原因

落鉄は、馬が通常とは違う動きをした際に起こるようです。
蹄鉄を装着する人を装蹄師と呼びますが、ベテラン装蹄師の鵜木忠さんは落鉄の原因について次のようにコメントしています。

「自分の脚でひっかけたり、躓いたりした時に蹄鉄が外れる」
つまり普通に歩いたり走ったりしている時に落鉄することはなく、何らかのアクシデントによって外れてしまうことがあるようです。

そして落鉄してしまうのはスタート直後や、ゴール後にスピードを緩めた時が多いそうです。
確かにその時は、馬のバランスがあまり良くないですよね。
また返し馬でのカニ歩きも、脚が不自然な動きをするので落鉄が多いです。

落鉄しないとどうなる?

落鉄はしない方がいいように感じますが、馬のためには適度に落鉄させる必要があるようです。
それは、落鉄しないと脚を持っていかれて馬が大けがをしたり、腰に衝撃が加わり痛めてしまうことがあるからです。

そこで装蹄師は蹄鉄の釘を打つ際に、少しだけ折り曲げて留めるそうです。
そのことによりある一定の力が加わると、蹄鉄がわざと外れるようになっています。

競馬を見ていると返し馬をしている時でさえ、蹄鉄が外れてしまうことがあります。
発走直前のゲートの後ろで輪になっている時も、落鉄しているのを見ますね。
このように落鉄は度々あるので、私たち素人はもっとしっかり固定しておけばいいのにと思ってしまいます。

しかし落鉄が頻繁に起こるのは、馬を守るためだったのですね。
「蹄鉄付け替えのため発走時刻が変更になります」という場内アナウンスがあったらイライラせず、落鉄して馬が無事で良かったと思うようにしましょう。

蹄鉄の歴史

蹄鉄の歴史

装蹄の始まりは諸説ありますが、約2500年前のローマ時代からと言われています。
その頃は鉄ではなく革製のブーツだったようで、それを紐で縛り付けていたためよく外れてしまったようです。

蹄鉄本来の金属製のものが一般的に用いられたのは、中世以降ということです。
革製の時代が、1000年ほどの長い間続いたことになります。

日本での蹄鉄の始めは、馬沓と呼ばれた藁性のものが使われていたようです。
その後軍馬として馬の需要が拡大すると、それに伴い装蹄の技術も向上していきます。

一方競馬ではより速く走るために、蹄鉄の軽量化が進みました。
さらに効率よく路面を捉えるために、グリップ力を効かせる改良がされ現在のような形になりました。
こうして見てくると蹄鉄の進化の過程は、人間の短距離競争のシューズ開発と似ていますね。

蹄鉄の必要性

蹄鉄の必要性

日本の馬は元々蹄が固くできていて、通常の生活を送る上では蹄鉄は必要ないようです。
しかしサラブレッドはより速く走るために創られ、進化してきています。

蹄鉄はサラブレッドの蹄を保護し、安定した走りをするために必要です。
普段の生活には必要なくても、競走馬は人を乗せて60kmもの速さで走ります。
蹄鉄がなければ蹄を痛め、ケガに繋がってしまうことでしょう。

また蹄鉄を装着することで競走馬は、滑らずに走りやすくなると言われています。
着地した脚で芝や砂をしっかり捉えられるため、前に力強く進む推進力が生まれるのです。
このように蹄鉄はとても重要なもので、競走馬の体の一部と言っていいかもしれませんね。

装蹄師の仕事

競走馬にとって大事な蹄鉄を、しっかりと装着するのが装蹄師です。
全国で約500人ほどが装蹄師として活躍していますが、一人前になるには10年〜15年の経験が必要と言われています。

同じ馬に関わる仕事でも騎手は、能力があれば1年目から活躍します。
しかし技術者である装蹄師には、長い鍛錬の期間が必要なのですね。

装蹄の方法

装蹄師の最も重要な仕事は、馬の蹄に蹄鉄を着ける装蹄です。
装蹄はおおよそ以下の作業手順で進めていきます。

装蹄の作業手順
  1. 今まで着いていた蹄鉄を外す
  2. 専用の刃物で馬の蹄を削る
  3. 蹄鉄を蹄の形に合わせる
  4. 蹄鉄を釘で打つ
  5. 釘を締める
  6. ヤスリで細部を調整して仕上げる
  7. 歩様を確認する

この内3の作業は、装蹄師の腕の見せ所です。
これはベースになる市販の蹄鉄を、それぞれの馬の蹄に合わせていく作業です。

専用のハンマーで手際よく叩き、微調整して蹄にフィットさせます。
装蹄はわずかなミスでも競走馬や騎手が危険にさらされるため、装蹄師にはミリ単位の正確さが求められます。

また同じ馬でも4本の脚それぞれに特徴があるので、それに合わせた装蹄は難しいといいます。
熟練の経験と感覚で1頭に約20分ほどかけ、1日に10〜15頭も手掛けるそうです。

蹄の形や馬の特徴は1頭1頭違うため、定規などで計って装蹄するわけにはいきません。
そのため装蹄師として一人前になるには時間がかかりますが、やりがいのある仕事だと感じますね。

馬の健康管理

装蹄師の役割の一つとして、馬の健康管理があります。
蹄を最も間近で、何度も見るのは装蹄師です。
そして馬にとって蹄は、第二の心臓とも言われているくらい重要な場所なのです。

馬の大きな体全体に血液を送り込むために、蹄が大事な役割を果たしています。
馬の脚が着地した際に蹄の柔らかな部分が広がり、そして地面から離れると縮みます。
その収縮によって、血液が満遍なく循環されるのです。

馬の蹄は、人間で言ったらふくらはぎのようなものでしょうか。
そんな大事な蹄は、裂蹄や挫跖などの疾患になることがあります。
装蹄師はそのような疾患を早い段階で確認でき、適切な処置をとることができます。

またベテランの装蹄師になれば、歩様の観察だけで大体のことがわかるそうです。
厩舎にとって信頼できる装蹄師は、とても貴重な存在ですね。

落鉄によるレースへの影響

落鉄によるレースへの影響

レース中に落鉄してしまった場合、馬の状態や着順にどの程度の影響があるのでしょうか。
確認してみると、落鉄によるレースへの影響は、立場によって見解が違うことが分かりました。
ここではJRA総合研究所、装蹄師、騎手の3者を取り上げ、それぞれの見解を比較します。

JRA総合研究所の見解

JRA総合研究所の調べでは、落鉄による着順への影響はほぼないということです。
これは優駿2012年11月号に掲載されたものですが、この時の調査対象は19例なので確実なものとは言い切れません。

人間がマラソンなどの競争で靴が脱げたら大変なことですが、馬はそうでもないということのようです。
競争馬の蹄鉄は125g以下と軽いので、一つくらい外れてもバランスを崩すことはないのかもしれません。

しかしJRA総合研究所の見解をもう一度見直すと、落鉄による着順への影響はほぼないとしています。
ということは、着順以外の微妙な影響はあり得るとも受け取れます。

それは馬がバランスを崩してしまうとか、滑ってしまうことなどが考えられます。
そうなるとハナ差で決着するレースでは、着順に影響しそうな感じもしますね。

装蹄師の見解

蹄鉄を作り装着する装蹄師は、落鉄の影響をどう見ているのでしょうか。
ベテラン装蹄師の鵜木忠さんは、落鉄によるレースへの影響はほとんどないと言っています。

理由としてレース中はテンションが上がっている状態のため、一つくらい蹄鉄がなくても影響なく走り切ると見ているようです。
一方で日本装蹄師協会の青木修理事は、落鉄についてのコメントはありませんが、蹄鉄について次のように述べています。

「蹄鉄は人間にとってのスポーツシューズ。履くと履かないとでは、安全性や走りやすさも違ってくる」ということです。
さらに蹄鉄を着けなければ「蹄が傷み、滑りやすくもなる」とも述べています。

このように青木理事のコメントからは、落鉄するとレースで若干の影響を受けるというようにも受け取れますね。

騎手の見解

落鉄について、乗っている騎手は気付くのでしょうか。
落鉄は馬の後脚で前脚を引っかけて起こることが多く、外れる際にガツンと音がするので気付く騎手が多いようです。

また落鉄によるレースへの影響について騎手は、馬が走りづらくなることから多少はあると考えているようです。
2017年の秋華賞でモズカッチャンに騎乗したM.デムーロ騎手は、レース後のコメントで次のように言っています。

「1コーナー手前で右前脚の蹄鉄が落鉄した。馬も右手前を気にしていた」ということからも、馬の違和感を感じとれるほどの影響はあるようです。
しかしこの時のモズカッチャンは、単勝5番人気ながら3着と馬券圏内に入っています。

このようなことから落鉄によるレースへの影響は、騎手は馬からの違和感を感じるが、JRA総合研究所や装蹄師の見解のように、着順に大きく影響することはないと言えますね。

落鉄した馬2頭を紹介

落鉄した馬2頭を紹介

近年のレースで落鉄したファントムシーフとジャックドールを紹介します。
ファントムシーフは2023年の皐月賞、ジャックドールが2022年の大阪杯と共にGⅠで最も落鉄したくない時に外れてしまいました。
騎手や調教師のコメントから、落鉄で馬がどのような状態になったのかを見ていきます。

ファントムシーフの場合

2023年の皐月賞でファントムシーフは1番人気に支持されました。
しかし落鉄の影響もあったのか、結果は3着に終わっています。

騎乗したC.ルメール騎手は、レース後のコメントで落鉄について次のように言っています。
「いいリズムで運べていたんだけど向正面で落鉄してしまって。これと悪馬場の影響でバランスを取りにくかったのか3~4角ではモタレ気味」

ここで分かるのは、落鉄は良馬場の時はそれほどでもないが、重や不良馬場の時は大きな影響を受けるということです。
これはぬかるんだ馬場で蹄鉄がないと、より滑りやすくなるということなのだと思います。

そんな状況でも3着に入ったファントムシーフは力があり、できる限りの騎乗をしたルメール騎手はさすがですね。

ジャックドールの場合

2021年後半から一気に本格化したジャックドールは5連勝で金鯱賞を勝ち、初のGⅠとなる2022年の大阪杯に挑みました。
その大阪杯では2番人気でしたが、落鉄の影響からか5着に敗れました。
この時の落鉄は右後脚と言うことで、前に力強く進む推進力が得られなかったとも考えられます。

またジャックドールを管理する藤岡健一調教師は「良の発表より馬場状態が良くなかった」とコメントしています。
そのため先ほどのファントムシーフと同様に、滑ってしまって馬の力を出し切れなかったと思われます。

特に後脚は後方へ大きく蹴り出して推進力を生むため、速く走るためには大事です。
それにしても大事なGⅠで落鉄してしまうなんて、競馬にアクシデントは付き物とはいえ陣営にとっては不運ですね。

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まとめ

この記事は落鉄とは何なのかについて解説してきました。
この記事をまとめると次のようになります。

落鉄のまとめ
・競馬で落鉄とは馬の脚に装着された蹄鉄が外れること
・落鉄は馬が通常とは違う動きをした時に起こりやすい
・落鉄しないと馬がケガをする可能性がある
・装蹄は約2500年前から始まった
・蹄鉄は蹄を保護し、安定した走りができる
・装蹄師の役割は馬に合わせた蹄鉄を装着すること
・落鉄によるレースへの影響は立場によって異なる
・重や不良馬場の時に落鉄の影響を受けやすい
・GⅠレースでも落鉄はある

装蹄師の仕事は魅力的なのですが、同時に大変だと感じました。
装蹄師は馬の体を守るために、蹄鉄をあえてしっかりと固定しません。
そのため落鉄することがありますが、これがGⅠだったら馬主や調教師はたまりませんよね。

陣営は落鉄を装蹄師のせいにするわけにもいかず、気持ちの持って行き場が見つかりません。
落鉄による着順への影響はないと言うことですが、実際に馬は不具合を感じ、それを騎手も感じとっています。

特に道悪の時は滑りやすいようなので、騎手がいくら修正しても多少の影響はあるのでしょう。
落鉄はそれそれが精一杯やっていても起こることなので、これからは誰を責めるでもなく、大きな気持ちで競馬を観戦しようと思います。