競馬における「追い込み」とは?差しとの違いと好走する条件を解説
競走馬には、それぞれ得意な走り方があり、「逃げ」「先行」「差し」「追い込み」という4つの種類に分けられています。
馬券を当てるためには、レース展開を予想することが必要不可欠ですが、レース展開を予想するためには、この4つの脚質について理解し、買い目に含めようとしている馬がどの脚質なのかを知っておかなければ、正確な予想はできないでしょう。
本記事では4つの脚質のひとつである「追い込み」について、特徴や好走する条件を解説します。
追い込みとは?
競馬を観ていて一番テンションが上がるのはゴール前最後の直線なのですが、その場面で後方から前の馬を一気に追い抜いてトップに立つというのは、競馬にあまり興味がない人が見ても豪快で迫力があり、競馬の醍醐味のひとつといえるでしょう。
追い込みを得意とする馬を「追い込み馬」といいますが、周りをほかの馬に囲まれてしまうと興奮してしまう馬や、そもそもスタートそのものが苦手で、後方に控えざるを得ない馬などが好む走り方です。
追い込みには細かく分けると以下2種類の走り方があります。
②第3コーナーを回ったあたりから徐々に前に進出し、最終コーナーを回ってスパートをかけ、後方の馬を抜き去る走り方
ちなみに②の走り方を「まくり」と呼んで追い込みと分ける人もいます。
差しとはどう違う?
最終コーナーを回ってから一気に加速し、先頭に立つ走り方をするのは「追い込み」の馬だけではありません。
もうひとつ、「差し」と呼ばれる脚質の馬も同じような走り方をします。
では「差し」と「追い込み」はどう違うのでしょうか。
追い込みは集団にいることを嫌うため、一番後ろから走ることになりますが、「差し」の脚質の馬は、馬群のなかに入ることに関してはそれほど苦ではありません。
したがって、差しの馬は馬群中段あたりに控えて前に出るチャンスをじっと伺うことになります。
競馬ファンには人気の脚質
追い込みは、見事に決まると豪快な勝ち方となることから、長年馬券を買っている競馬ファンにもとても人気がある脚質です。
競馬に興味を持ち、馬券を買い始めるようになったのも、追い込み馬が前の馬を一気に追い抜くようなレースを見たからだという人も多いのではないでしょうか。
追い込み馬が勝ち続けることは難しい
追い込み馬の勝ち方は迫力がありますし、見てて爽快感を感じることは間違いありません。
しかし、実際は追い込み馬が勝ち続けることはとても難しく、直線でスパートをかけても先頭には惜しくも届かなかったり、場合によっては前に出る機会すら奪われてしまうことが多々あるのが現状です。
追い込み馬が連勝することが難しい理由は主に以下のふたつが挙げられます。
進路が塞がれやすい
追い込み馬は、その馬の気象などから、レース終盤までは最後方に控えざるを得ません。
そして最終コーナーで一気に加速して前に出るわけですが、最終コーナーを回った後は追い込み馬だけではなくすべての馬がスパートをかけます。
競馬場のコースというのは、その時の状況によって特に走りやすい場所というのがあり、騎手は瞬時に走りやすい場所を見つけてその場所に馬を誘導しながら走ります。
追い込み馬ももちろん走りやすい場所でスパートをかけたいところですが、そういった場所はすでに先行馬や差し馬に先に走られてしまい、一番良い進路はすでに塞がれてしまっているという状況になりやすいです。
そのため、基本的に追い込み馬は比較的芝が荒れていない大外に進出してからスパートをかけることになりますが、当然外に出す分距離的にもロスしますし、前に出るのもほかの馬よりも遅れるため、追い込みで勝つには馬の能力はもちろん、騎手の判断力や技術力も必要となります。
レースのペースに大きく左右される
もうひとつ、追い込み馬が勝てるかどうかはレースのペースに大きく左右されてしまうことも、なかなか連勝できない理由のひとつとなっています。
特に逃げ馬が1頭しかいない場合は、逃げ馬が必要以上にスピードを上げる必要もなく、自分のペースでのびのび走ることになります。
すると、先行馬も無理に追うことはせず、付かず離れずの距離でゆっくり走ることになるので、前を走る馬たちは必然的にスタミナが温存されることになり、最後の直線でもトップスピードを長い間キープできます。
このような展開になってしまうと、追い込み馬の強烈な末脚をもってしても先頭には届かず、敗戦となってしまう可能性が非常に高くなります。
逃げ馬が何頭出走するかで、勝率は大きく変動してしまうのです。
追い込み馬が好走する条件とは?
では、逆にどのような状況であれば追い込み馬は好走しやすいのでしょうか。
本項目では追い込み馬が好走しやすいと判断できる条件を3つ紹介します。
最終直線が長いコースでのレース
追い込みは、最終直線ですべての力を解放し、前の相手を抜き去ります。
したがって最終コーナーを回ってから、ゴールまでの最終直線が長ければ長いほど前の馬を追い抜く時間の猶予が増えるため、追い込み馬が勝ちやすいです。
中央競馬が開催される競馬場のなかで直線距離が長い競馬場として知られているのは以下4つです。
・新潟競馬場
・阪神競馬場
・京都競馬場
このうち、「東京競馬場」「阪神競馬場」「京都競馬場」はG1レースが実施される競馬場であり、馬券を購入する機会も多いので、必ず覚えておきましょう。
逃げ馬が複数頭いるレース
次に、馬券に絡んできそうな有力な追い込み馬が出走していて、なおかつ逃げ馬が複数頭出走しているレースの場合は狙い目です。
逃げ馬が複数頭存在するということは、ほかの逃げ馬よりも先に前に出ようとするため、自然とスタートしてからのペースは早くなります。
逃げ馬がどんどん前に出ると、逃げ馬の様子をうかがいながら走る先行馬も前に行かざるを得ないので、先行馬も普段よりも早く走るしかありません。
すると、ゴール前の直線にたどり着くまでにスタミナを大幅に消費することとなり、最後の直線ではすっかりスタミナが尽きてしまって本来の加速力を発揮できなくなります。
一方追い込み馬はしっかりとスタミナを温存しているため、最終直線でしっかりと加速することができます。
結果的に前の馬たちに追いつきやすくなるので、逃げ馬が複数頭出走しているレースの場合は追い込み馬にとって有利な展開となりやすいのです。
スローペースで前と後ろの差がそれほどない時
逃げ馬単独のスローペースは基本的に追い込み馬にとって不利なのですが、逃げ馬のなかでも積極的にあまり前にいかない馬もなかには存在します。
すると、一番前と最後方との差がそれほど大きくならず、最終コーナーを回ってからの商戦勝負となります。
こうなると、最後の直線で末脚を爆発させる追い込み馬にとってはかなり有利な展開です。
何しろ前と後ろの感覚が詰まっているので、短い距離であってもすべての馬を抜き去るチャンスがあり、追い込み馬にとってはもっとも有利な展開といっても過言ではありません。
代表的な追い込み馬
先ほどの説明を見てもわかるように、追い込み馬はいくつかの条件が噛み合わなければなかなか勝つことができない脚質です。
ところが、競馬界では時にそのような不利な条件を跳ねのけるほど飛び抜けた能力を持った馬が現れ、追い込みで豪快な差し切り勝ちを連発します。
本項目では特に多くの競馬ファンの記憶に残った強さを見せつけた追い込み馬5頭を紹介します。
ミスターシービー
ミスターシービーは、伝説の名馬とされている「新参」以来のクラシック3冠を達成した競走馬として知られています。
気難しい性格であるため、馬群の中で走らせることが難しいのが追い込み馬となった最大の理由ですが、その結果すべてのレースを最後方からの豪快な追い込みで勝つというこれまで観なかったような勝ち方をする馬として、当時は絶大な人気を誇りました。
残念ながら、翌年に「7冠馬」シンボリルドルフが登場し、彼には一度も勝つことはありませんでしたが、ルドルフの登場が無ければまだまだ勝ち続けていたことでしょう。
ヒシアマゾン
ヒシアマゾンは3歳時にエリザベス女王杯を含め重賞レース6連勝をし、現在も日本競馬史上最強と言われているナリタブライアンと互角に渡り合うほどのすさまじい切れ味をもつ末脚を持った牝馬として有名です。
特に3歳時に出走した「クリスタルカップ」では残り100mで4馬身離れていた先頭に追いつき、さらにそこから1馬身以上突き放して勝つという異次元の末脚を炸裂させています。
デュランダル
通常、追い込みというのは前の馬がスタミナが尽きてくれたほうが有利となるので、中距離以上の距離のほうが有利とされています。
ところが、このデュランダルは短距離馬でありながら追い込み走法で勝つという常識を覆す勝ち方で、当時絶大な人気を集めた名馬です。
トップレベルのスプリンターが集まるG1レースでもしっかり追い込みで勝利しており、マイルチャンピオンスシップ連覇や、スプリンターズステークス優勝、高松宮記念2着など、単純にマイル・短距離の馬として見ても優れた成績を残しています。
ディープインパクト
競馬をあまり知らない人でも、ディープインパクトという馬の名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。
平成時代の競馬界を代表する1頭であり、日本競馬史上最強の馬はどの馬かという話になると、必ず名前が挙がる1頭でもあります。
ディープインパクトは、スタートがあまり上手ではなかったので結果的に追い込み馬となりましたが、ほかの脚質と比べてかなり不利といわれている追い込みで、それを感じさせないほどの圧勝劇を繰り返すほどの能力を持った馬でした。
追い込み馬に限定するのであれば、間違いなく史上最強でしょう。
ゴールドシップ
ゴールドシップも「宝塚記念」連覇を含むG1で6勝を挙げる、平成を代表する追い込み馬の1頭です。
ゴールドシップもスタートがあまり上手ではなく、結果的に追い込み馬となりましたが、出遅れをものともしないすさまじい末脚を持っており、特に「皐月賞」では大外からワープしたのかと思ってしまうようなすさまじい末脚を披露しました。
間違いなく強い馬なのですが、とても気分屋で、ちゃんと走ってくれるかいつもハラハラさせられたところや、数えればきりがないほどの破天荒なエピソードも相まって、今も多くの競馬ファンに愛されている名馬です。
まとめ
追い込みとは、馬群最後方からレースを進め、最終コーナーを回ってから加速し、前の馬をごぼう抜きにして1着になる走り方です。
気難しく、馬群に囲まれると本来の力を発揮できない馬や、スタートが上手ではない馬がこの走り方になりますが、一番後ろから前の馬を差し切る走り方は競馬をあまり知らない人でも見てて気持ちよく、追い込み馬を好きな競馬ファンはとても多いです。
しかし、馬群に進路を阻まれやすかったり、逃げや先行の馬のペースで勝率が大きく変動するなど、続けて勝つことがなかなか難しい脚質でもあります。
条件が揃わなければ勝つことが難しい追い込みですが、時にそのような不利な条件をものともしないような能力の馬が登場しており、歴史的名馬のなかには追い込みでG1を複数回勝利している馬が何頭か存在します。